あるときは救命医、あるときは整備士、子どもと夢を語り合う父親――。
これほどまでに、役によって表情・雰囲気が変わる役者がいるのかとさえ感じる俳優・小市慢太郎さん。
原作が直木賞を受賞したWOWOW連続ドラマW『下町ロケット』にて、 佃製作所に出向中の冷静な銀行マン・殿村直弘役を演じています。 役者を超え、アーティストとしても活躍中である小市さんのインタビューをお送りします。


・前編 (2011/11/30更新)
・後編 (2011/12/15更新)



ピックアップ魂 vol.4
小市慢太郎篇 前編


メイク、衣装、現場の雰囲気を感じて、そこで役が作られる

― 役者になろうと思ったきっかけを教えてください。

動機はふたつあります。 まず一つが、親戚が多くて、盆や正月に7・8人も子どもが集るような環境だったことです。そのたびに大人からリクエストされ、子どもたちだけで台詞を割り振って寸劇したり。自分たちを見て大人が楽しんでくれることが、純粋に嬉しかったですね。 そして二つ目が、俳優がレポートしている旅番組が好きだったこと。世界は広くて、それぞれの文化圏でいろいろな価値観を持って生きていることを自分の目で見たかった。文化人類学にも興味があって、昔ながらの生活をしている人たちと関わってみたいなあとか、マチュピチュ、エジプト、インド、グランドキャニオンなど、地球を感じるスポットに興味がありました。まあ、こちらは不純な動機ですけどね(笑)。

― 実際に演劇をスタートしたのはいつですか?

大学の学生劇団が最初ですね。小劇場で手売りでチケットを売って友達が見に来るようなところから始まり、先輩の劇団に勧誘され、舞台で客演するようになって、次は映像から声がかかってという流れです。

― 例えば、スポットで入っても演じた役にリアリティーを出すことができ、ありふれたシーンでも見る人をはっとさせられる。それが小市さんの素晴らしいところだと思います。役に向き合う姿勢や、今まで約20年ほど俳優を続けてこられて、演技のスタンスに何か変化があれば教えてください。

昔は考えるタイプでした。事前に一生懸命想像して作っていましたね。 しかし、今は現場で感じることがほとんどです。
現場に行くまでは普通で、衣装を着るとちょっと顔が変わり、 メイクしていただくと何となく入ってきて、待っている間にそれなりの雰囲気になって、 呼ばれたときにはその人になっている。
事前に作りすぎない、むしろ、作らない。でも本を読んでいるうちにできていくもの。私はかなりしっかりと本を読むタイプなので、物語を通して読んでいると、お前の役はこうなんだ、というのが台本にある程度書かれているような気さえしますね。そうして現場で共演者に合って声を聞いて、そこで感じて作られるものになっていますし、そこで感じたものを出すようにしています。

― では、役と自分の間でジレンマがあったりというのがないですね。

 

そうですね。こうやろうと思っていないので、ジレンマは生まれません。 むしろ「こうなりました」「これなんですけど、どうでしょう」という具合ですね。 その代わり、撮影中はドラマの世界と現実の世界を行ったりきたりできないんです。例えばカットがかかって確認している待ち時間というのは、普通はみなさんリセットされると思うのですが、私は向こうの世界(ドラマの世界)にいて、待っている感覚なんです。

― それは独特ですね。

まったく独自のスタンスですね。
ビデオでいうと一時停止のような状態で、リ・スタートに備えているという状態ですから。入り込みすぎているわけではなく、自然とそういうやり方になっていました。

「命」を演じること

― 今年大震災がありましたが、役者という職業の中で心境の変化はありましたか?

私は阪神大震災も経験していて、東日本大震災は二度目の体験なのです。多くの方々の命について、そして今自分の命があるということに対して、本当に考えさせられました。「命」や「今生きていること」を考えるのは、自分のテーマにもなっている部分があります。 世界中の人が日本を助けてくれたことへも、非常に感謝を抱きました。

― 「命」がテーマというのはどういうことでしょうか?

ドラマや映画は、ストーリーの構成や演出上、人が死んでしまうシーンがどうしても多出してしまいます。 人の“死”というものは、とても大きな悲しみであるはずなのに、ともすれば画面の中で簡単に死んで終わってしまう。私自身、それを受け入れられないんです。

― ドラマ「JOKER 許されざる捜査官」では子どもを殺された父親役でしたが、その時は何か意識して演じられましたか?

そうですね。実際に子どもを亡くしてしまった方がいて、見たくもないのに、 偶然にもそのシーンをテレビで見てしまう。 一歩間違えると「ふざけるな」という感情を抱いてしまいかねませんよね。
だからこそ、人の命がクローズアップされていたり、命に直接触れたり、または実在だった人物を演じる時代劇などの役は、可能な限り何かそこに深みを持たせたいですし、納得していただくものを届けたい。そうでないと、死に関しては軽く触れて、エンターテイメント的なところだけが残ってしまう。それは非常に悲しいです。

― 小市さんのブログでは、日々「感謝」の感情がつづられていて、とても印象的です。

普通に生きていると、それが当たり前に感じてしまいますが、決してそんなことはない。 命というのは奇跡的なものなのです。 太陽と地球の距離が今より遠くても近くても地球に生命は誕生できなかったわけですし、 木があるから空気がある、食物があり、 それを作る人がいるから食事ができ、その中で毎日朝が来て、一日を生きることができる。 これは、感謝以外の何物でもありませんね。
昔はいいことがあると幸せでしたが、今は、何事もないと幸せを感じるようになりました。それも私の中の変化ですね。

― ちなみに、幼いころからの夢だった旅番組への出演はされましたか?

残念ながら、一度もありません(笑)。 私は小市慢太郎のままで表に出たことが一度もない俳優なんです。 実際俳優はイメージがないほうがいいと思っているので、役名で覚えてもらうくらいでいいですね。 役とは、その世界のその人ですし、私とその役の人とは違うわけですから。

  • vol.4 [後編] 12月中旬公開予定



ピックアップ魂 vol.4
小市慢太郎篇 後編

原作が直木賞を受賞し、WOWOW連続ドラマにて放映、2012年1月にDVD化される『下町ロケット』。 小市さんが演じた殿村は、その知性と穏やかな人格が発揮された作品でした。 さらに、総合アーティストとして、絵画や舞踊と表現の活躍を広げている現在の活動についてお伺いしました。

現場の中の「演技部」として

― 2011年8月~9月に放映された連続ドラマW『下町ロケット』ですが、まず、現場はいかがでしたか?

実は原作の「下町ロケット」が直木賞を受賞したのがオンエア直前の撮影中でした。 ドラマの話題性としても嬉しい出来事でしたし、もともと素晴らしい現場だったものがさらに盛り上がり、 本当にいい相乗効果がありました。
「制作部」「衣装部」「美術部」などとセクション分けされる中で、 私たち役者はいわば「演技部」です。作品は総合芸術なので、各部署のどこが欠けてもなりたちませんし、 それぞれがきっちり仕事をしないと完成しません。 『下町ロケット』は、キャストとスタッフが一丸となって前向きなエネルギーが集まり、 いいものを作ろうというパワーが強くあった現場でした。不思議と現場の体温は作品から匂いますよね。 それが伝わる作品になったのではないでしょうか。

― 撮影中のエピソードを教えてください。

職業訓練所をセットで借りていたのですが、そこの関係者の方に「『下町ロケット』は、中小企業の希望なんです。頑張ってください!」と声をかけてもらったことですね。私も同じように感じていたので「ありがとうございます。いい作品になりますよ!」と返しました。 何かと暗いニュースが多い現代ですが、企業や日本のモノづくりなどに対して、何か勇気を与えられるものになったら嬉しいですね。

― 小市さんの役である「殿村」は、銀行から出向している経理部長という設定です。何か難しさはありましたか?

殿村は、いわば会社の番頭です。現代社会は金銭というのがとても大きなウエイトをしめているわけですから、会社に金がないというのは大問題で、大きな重責を背負っています。 そこまで会社の懐事情を知らない他の社員と体温が違うのが如実に出るはずですから、やはり冷静ですよね。

― ストーリーにおいて、小市さんの殿村を含めた幹部が喜ぶシーンがとても印象的です。

なるほど。ずっと経営や数字に悩んでいるという殿村のキャラにのっとって演じていますが、 途中二度ほど喜びを出せるシーンがありますよね。一度目はまだまだ途中段階のため、 「まだ次にハードルがある」というぐっと抑えた喜びです。 二度目が、本当に手放しで、感情が爆発したように喜べる。
実は、事前に監督から「こいっちゃんの笑顔は印象的だから、最後まで封印したいんだよね」 という話はされていました。その演出が佃製作所の状況をとてもよく表していると思います。

― 役柄的に、三上さんと一緒になるシーンが多かったと思います。

三上さんは、芝居に対して誠実な方ですよね。もちろん他の役者さんも、みんなが横一線の意識で、素晴らしい現場でしたよ。
私は現場では「殿村」で、三上さんは「佃さん」ですから、共演相手としてだけではなく、実際の社長として「三上さんでよかった」と何度も思っていましたね。
そうそう、撮影中に三上さんから普通に話しかけられても、私はあくまで殿村なので、殿村調で「はい」とか「そうですか」と返事をするんです(笑)。さきほども言った通り、私は映画の世界と現実を行ったり来たりできないので、そういう姿勢をみなさん理解してくださっていたことは感謝しました。

― 映画の中で「佃品質」という言葉が出てきますが、WOWOW品質を感じた映画でもありました。

WOWOWのドラマは5話(5時間)。テレビドラマが約10話だとしたら半分で、かつ2時間半の映画の倍。映画では短くて描けないところもしっかり描写できますし、テレビドラマほど広がれないというか、そのボリュームが絶妙で、新ジャンルだと思います。

シンプルに表現する

― 少し話はそれてしまいますが、小市さんは絵も描かれるそうですね。2009年には個展も開かれたそうで。

特に勉強したことがあったわけではないのですが、6年~7年前、ふとしたきっかけでオリジナルで絵を描いてみたんです。特に何かをモチーフにするのでもなく、集中して描いて、もう足すものがないな、と思ったら終わりにして、そこではじめてタイトルを付けるというスタイルです。
会社のロゴも担当して、筆ではなく手で描きましたし、とある方面から依頼され、神社に絵灯篭を提出して、来年は絵馬を描く予定です。

― 役者と絵を描くこととの間に、何かつながりがありますか?

事前に何を描くと決めず、キャンバスを前にして感じたもので表現することでしょうか。そういう意味ではシンプルに、余計なことは考えない。その部分はつながるかもしれません。
あと、もしそこに調整機器のようなものがあったとしたら、つまみを上げ下げして「明るく」「暗く」を微調整したり「感情的に」のレベルを上げたり…ということは、役でも絵でもしていると思います。

― 最後に、小市さんにとっての「役者」とは?

昔、母がよく言っていた言葉に「駕籠(かご)に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋(わらじ)を作る人」ということわざがあります。世間にはさまざまな立場の人がいて、うまく社会を構成していることのたとえなのですが、作品においては、俳優は「乗る人」で、制作や映像スタッフが「担ぐ人」「作る人」でしょうし、実社会でも私はいろいろな仕事の人のおかげで快適に生きていると思う。だからこそ日々感謝なのです。
それにしても、役者は欲張りですよね。人生の中で1か月~3か月ほどを別の人生を生きて、別のパートナー、別の職場、別の家族、そして 別の感情を体験する、ということを繰り返すわけですから。そういう意味では、役というのは、私にとってはギフト。いただいたものに対して先入観を持たず、喜んで受け入れ、大切にしながら勉強させてもらっています。

― ありがとうございました。
 



編集後記

今回のインタビューでは役者が表現者であると改めて感じさせられた。
しかし同時にそうであることが非常に難しいということも。
仕事柄多くの役者(特に小劇場やドラマなどで地道に活動している方々)に会うが、小市さんのように『絵を描く』『踊る』といった衝動に近い感覚で演じ続けられている役者がどれほどいるだろうか。
役者という職業には免許も年齢制限もない。誰かに認められ評価されてナンボの世界だ。
それ故、世の多くの役者たちは『露出』に走り、その結果テレビに行きつき、何割かは成功を収める。しかし一方で多くのドラマ、映画に溢れる現代において、役者=セリフを読む人となり『表現する』ことを忘れている役者がいることもまた事実だ。
小市さんは役者を演技部と称し作品を構成するイチ歯車とする一方、脚本家が書いた役を噛み砕き自己表現に落とし込んでいる。もし役者に免許があり、プロとアマに分けられるならば、小市さんのような役者のことをプロフェッショナルと呼ぶのだろう。

(役者魂 担当)

 

ピックアップ魂
  • スリーサイズB 92 W 74 H 88
  • 生年月日1969-02-15
  • 出身地大阪府
  • 特技

    殺陣、絵画、舞踊

  • 小市 慢太郎


    こいち まんたろう

    所属事務所:Sai株式会社
【略歴】

大阪府出身。劇団M.O.P.を中心に活動し、CMソニー「サイバーショット」「三井住友VISAプラチナカード」やテレビドラマ『救命病棟24時 第3シリーズ』(05)、『アテンションプリーズ』(06)、『ハゲタカ』(07)などの話題作・ヒット作に続々と出演。2011年より総合アーティストとして始動し、絵画、舞踊と表現活動を広げている。

 

 

 

 

 

 

 

出演歴
■映画
「交渉人THE MOVIE」松田秀知監督
「死刑台のエレベーター」緒方明監督
「剣岳」木村大作監督
「ハゲタカ」大友啓史監督
WOWOW「犯人に告ぐ」瀧本智行監督
「DearFriends」両沢和幸監督
「黄色い涙」犬童一心監督
「輪廻」清水崇監督
「隠し剣 鬼の爪」山田洋次監督
「パッチギ!」井筒和幸監督
「クイール」崔洋一監督
「機関車先生」廣木隆一監督
「張り込み」(主演)篠原哲雄 監督
「ココニイルコト」長澤雅彦 監督

■CM
ソニー「サイバーショット」(2007.3.10~) D:松﨑茂登
住友生命(2005.11~1) D:宇恵和昭
パナソニック「VIERA」(2005.6~12) D:長澤雅彦
MASTER CARD(2004.3~1年間)

■舞台
※劇団M.O.P.公演以外の近年のステージ

2009「パッチギ」 総合演出:井筒和幸 於:ルテアトル銀座ほか
2007「テイクフライト」 演出:宮本亜門
2006「アンナ・カレーニナ」 演出:鈴木裕美 於:ルテアトル銀座ほか
2005「パウダア」 演出:宮田慶子 於:紀伊國屋ホール 他
2004「おはつ」 演出:鈴木裕美 於:新橋演舞場
2003劇団☆新感線「阿修羅城の瞳」 演出:いのうえひでのり
■ドラマ
WOWOW「下町ロケット」レギュラー D:鈴木浩介、水谷俊之
NHK朝ドラ「てっぱん」20、21週 D:石塚嘉
EX「ナサケの女~国税局査察官~」レギュラー D:松田秀和、田村直己
CX「JOKER 許されざる捜査官」① D:土方政人
NHKSP「大阪ラブ&ソウル~この国で生きること~」 D:安達もじり
NHK土曜ドラマ「鉄の骨」 D:柳川強、須崎岳、松浦善之助
NHK大河「龍馬伝」 D:大友啓史、真鍋斎、渡辺一貴、梶原登城
CXSP「愛はみえる~全盲夫婦に宿った小さな命」 D:谷村政樹
CXSP「3.20地下鉄サリン事件 15年目の真実」 D:田島大輔
WOWOW「パーフェクトブルー」 D:下山天
CXSP「眉山」 D:永山耕三
CX「薔薇のない花屋」⑥⑦⑧ D:中江功、葉山浩樹、西坂瑞城
CX「ガリレオ」② D:西谷弘
CXSP「千の風~/ゾウのはな子」 D:河野圭太
NHK大河「風林火山」13~46 D:清水一彦、田中健二 他
NHK土ドラマ「ハゲタカ」レギュラー D:大友啓史、井上剛 他
TBS「セーラー服と機関銃」レギュラー D:平川雄一郎、加藤新
CX「アテンションプリーズ」レギュラー D:佐藤祐市、植田泰史
NHK金曜時代劇「秘太刀馬の骨」レギュラー D:高橋陽一郎 他
CX「救命病棟24時」レギュラー  D:若松節朗、水田成英、西谷弘