脚本家・三谷幸喜に「変幻自在の演技で、どんな年齢のキャラクターでも演じてしまう」とまで言わせた女優・吉田羊さん。その演技を見ると、出演依頼をせずにはいられなくなる実力の持ち主であり、堂々とした出で立ちや発言、目立ちたがり屋だけど「実は基本的に自信がないタイプ」だと話す吉田さんに、舞台、ドラマなどでの演技についてお伺いしました。



ピックアップ魂 vol.7
吉田羊篇


評価を自信に、縁を大切に

―吉田さんの小さい頃を教えて下さい。

客人の多い家で、両親が大のもてなし好き。特に母が、手作りの料理やお菓子を作っては、家族よりも先に来客にふるまうんです。そんな母に倣って、私は歌ったり、松田聖子さんのモノマネをしたりして持て成しました。 そのときにオーディエンスから拍手をもらうことが楽しみで、その経験から、将来は女優とかモデルとか、評価されるような職業につきたいと漠然と思っていました。子役募集広告なんかも見てましたが、基本的に自分に自信がなくて、一度も飛び込めなかったんです。

―女優への道を踏み出したきっかけはありましたか?

私は女子高だったのですが、体育祭の応援団長になったんです。思い切って髪をショートにしたら妙にハマって、周囲からも大好評。私のファンクラブまでできちゃいました(笑)。今思えば、それが赤の他人が自分を評価してくれる初めての体験で、当時はもう嬉しくて。やっぱり進むべき道はオーディエンスの前なんだ…と。 大学3年のとき、パラパラとみていた「ぴあ」の演劇欄外に「三ヶ月後の公演に出演できる女優募集」っていう広告を見つけました。養成所とかじゃなく、すぐに役者をしたいと思っていたので、飛びつきましたね。とんとん拍子に合格して、なぜか準主役。はじめての舞台でいい役をいただけて、それは面白くなりますよねえ。そこで見てもらった人に声をかけていただいたり、またそれが次につながったり…と、年に2~3回小劇場でやっていましたね。

―劇場から、どんどんテレビでのご活躍が増えていますね。

私にとっての転機は、中井貴一さんなんです。連続テレビ小説「瞳」に看護師役として出演していた私を見てくださって、「あの女優は誰だ!?」って探してくれていたそうなんです。その後、「風のガーデン」の現場で、直接中井さんにご挨拶できたときに「ありがとうございました」って伝えさせていただきました。「こちらこそ」って言われて、 「え?なんでですか?」って聞き返したんです。すると 「どんなに小さい役でも、一生懸命やっていると誰かが見てくれてるってよくいうけど、本当にそういうことがあるんだって気づかせてくれたから」 って…。もう「中井さん、なんて素敵なんだろう!」と思いました。

 

“8割+1割+1割”の役作り

―吉田さんなりの役作りはありますか?

最初の本読みで8割はイメージがきまって、そこから疑ってかかる作業にかかります。ほんとにこれでいい?読み方間違っていない?って探りながら、改めて読んでみるのがもう1割。残りの1割は、現場で監督や共演者さんと詰めていく。そこで生まれたものを足して10にするイメージでしょうか。だから現場ではなるべくコミュニケーションをとって、互いに言いやすい雰囲気を作ります。

―8割というのは大きいですね。監督とイメージが大きくずれていたということはありませんでしたか?

あります。ただ、基本的に監督の言うことには逆らいません。100%客観視は無理なので、まず赤の他人から見た私でやってみようと思います。それでもできなかったら「なんか気持ち悪いです」って言います(笑)。

―「コードブルー」では、今まさに死のうとしている子の母親、「パーフェクトリポート」では過去に大切な人を亡くした女性。同じ「誰かを亡くす」という設定を見事に演じ分けられていたと思います。この『過ぎた時間』感って、結構難しいはずですが。

そこは天性だと思います。なんて、言っちゃった(笑)。なんていうか…実際、冤罪にかけられた方や、脳死判定の方の奥さんなどに話を聞きに行ったかって言われるとそんなこともないから、私の中の持っているもので演じました。台本と目の前のあることを感じただけなんです。

―「コードブルー」、本当によかったですよね。

ありがとうございます。振り返ると、本当に恵まれていた現場でした。(本来ならカットを分けるところを)私のリハを見て「これは一連でいきましょう」と言って下さったんです。「羊さんの気持ちを止めないために、それがいい」って。その時のシーンは、今見ても「なんでこんなに泣けたんだろう」って思うくらい気持ちが乗って泣いてますね。

―どの作品を見ても吉田さんにはリアリティを感じます。

深く考えず「どうにかなる!」って思って、今までどうにかなってきたような気もします(笑)。もちろん、うまくいかなかったことも、「もっとこうすればよかった」というものもあります。ありますけど、選択したのは自分だから納得もいきますし、あの時の私の精一杯だったんだから、今もっと頑張れば大丈夫だって思える悩みなんです。それが度胸と言われたら度胸かもしれません。出かけてみなければ、そこにどんな花が咲いているかわからない。だから、出かけることを躊躇したくないんです。

三谷作品においての「吉田羊」

―舞台の話は、やはり三谷作品を抜きにしては語れないのですが、一番直近では2011年3月・4月パルコ公演「国民の映画」ですね。

まだ作品の内容も台本も知らないときに、三谷さんに「好きな作品か役を3つ挙げてください」って言われたんです。私、「吉原炎上の西川峰子さんのような役を演じてみたい」って言ったんですね。そうしたら「いただきました。大変参考になりました。役はお楽しみに」って含みを持たされて、ドキドキしていたんです。まわってきた役が、田舎から出てきた新進女優で、愛人となった人の権力と自分の実力を勘違いしてしまう悲しくて浅はかな女・エルザ・フェーゼンマイヤー。 私もすぐに調子に乗ってしまうタイプなので、台本を頂いたときに「ああ、私三谷さんに本性見抜かれているんだ!」ってすごく恥ずかしかったことを覚えています(笑)。 そうやって似ているのになかなかうまくできなくて、公演直前まで悩んだ役でもあるので、とても印象深いですね。

―直前までですか!吉田さんにしては珍しいような気がします。

読み合わせのときに「羊さん、二十歳のつもりで読んでください。今の感じは落ち着いて大人すぎるから、他の人とは突出して異質にしたいんです」って言われました。「幼稚」ってことかな?と自分なりに考えて、口調も所作も、かなりキャピキャピにして、見るものすべてが新鮮!っていう感情にしたんです。三谷さんはいいって言ってくれたのですが、私はずっと納得いかなくて。多分、(実年齢と比べて)無理をして作っていましたから、我ながら芝居が嘘に思えて恥ずかしかったんだと思います。 なのに初日があけたら、私の違和感なんて関係なく、ドッカンドッカン笑いが起こるんです。戸惑いながらも続けた連日公演のある日、ふといつもと違う仕草をしたら「これエルザだ!」って気づいた瞬間がありました。そこからやっと役が私のものになったというか。 舞台って、誰かのセリフが飛ぶ、みたいなハプニングも、それをみんなでどう埋め合わせようかっていう一体感に変わりますし、客席には「その日その公演」でしか味わえない特別感が広がって、劇場全体の熱がひとつになるからいいですよね。 それもこれも何度も演じられる舞台だからこそですね。

―テレビに対して舞台って役者が“もがける”場所なんですね。

そう。そもそも、お芝居をすることって、気づきの連続だと思うんです。一つひとつの役を演じて、役に対して一つでも多くのことを気づいていく、それが役者なんでしょうね。特に舞台だと、何度も演じるので、気づきが多いと思います。 逆に映像は作品数が多いので、色々な役を演じられるチャンスがありますしね。

クールな女性上司を演じる“朝ドラ”「純と愛」

―吉田さんは、舞台、テレビ関係なく、どんな作品、どんな役でも柔軟に演じていらっしゃいますね。NHK連続テレビ小説「純と愛」では、とくに集中していらっしゃるようにも感じました。

そう言っていただけると嬉しいです。ただ、テレビのキャリアは決して多くないので、新人女優の気持ちで毎回勉強です。私が演じる桐野富士子という人物は、ホテルの接遇指導担当役としてヒロインの夏菜ちゃん演じる狩野純を指導するのですが、一番嘘をつけないサービスやマナーなどの「所作」を事前講習や指導の先生にみっちり教えて頂けたので、役の感情に集中できました。先生からは「富士子さんはうちのホテルに欲しい」って言われましたよ(笑)。

―桐野富士子という人物は、吉田さんと似ている部分などはありますか?

私はとても男性的なところがあるのですが、富士子も結婚より仕事を選んでいるという男性的な部分が似ているなあと思っています。あと、完璧な人なのだけど、心の中に何か抱えている部分が人間味があっていいなあと思って演じています。彼女の仮面がいつ剥がれるのか?そもそも剥がれることはないのか?という所も見ていただきたいです。

―朝で、かつ15分という時間なのですが、不思議とゴールデンのドラマを見ている感覚がありますよね。今後の見どころも含めて伺ってもいいでしょうか?

そうなんです。“朝ドラ”らしくないことをやろうとしているし、テンポもいいですからね。 見どころは、無鉄砲なヒロイン・純が巻き起こしていく騒動のなかで彼女も成長するし、巻き込まれている人も変化していくところが一点。そして何より主題となっている「愛」ですね。愛といっても形はそれぞれで、夫婦円満や相思相愛という愛もあるし、そうかと思えばストーカーや、子供を虐待した上で抱きしめるといういびつな愛もある。人間は愛で傷つくこともあるけど、また何かしらの愛で癒される…。そんな「愛の力」を、監督さんや脚本家である遊川さんの描く表現で、感じて欲しいです。


―今後、こんな役をやってみたいというのはありますか?

コメディとかコントには挑戦してみたいですね。人を笑わせるって一番難しいと思うから。コントの間合いと呼吸は芝居に繋がるとおっしゃった監督がいて、ならば一番難しいと自分が思う場所でこそ挑戦したいなと。 具体的には、コメディの中でやる真剣なお芝居に興味がありますね。 あとは、「普通の人」をやりたいですね。今までは、心の中にあるものを前面に出す余り、キャラが強いという役が多かったんです。でも、例えば妬みや嫉妬を抱えてても、人って普通は隠そうとするでしょう? 分かりやすいという意味ではキャラの強い役はある意味やりやすいのですが、そろそろ逆で勝負したいと思うんです。見ていただく方に「この人普通そうだけど、一物もっているだろう」って思わせるような、内面がにじみ出るような役を。

 

― ありがとうございました。

 

 



編集後記

写真を見て頂ければおわかりになるだろうか。 紙資料が何枚にもわたって置いてあるのが。 吉田さんはこのインタビューに向けてこれほどまでの準備をして下さった。 もちろんこれまでお話を聞いた方々が準備をしていなかったわけではない。 準備したのにお話に準備した感がないことが吉田さんらしいと感じたのだ。

吉田さんのように活躍している女優が役者としてもがいて苦しんでいないわけはない。 しかしその努力の跡を我々にみせず飄々といる、逆に言えばそう周りに映るようになるまで準備できる、それが彼女の役作りであり天から授かったチカラなのだろう。そこに嫌味はまるでない。

彼女の話では映画の現場にはまだ慣れないという。それはおそらくまだ次の舞台に進む準備が終わっていないのだろう。 舞台から始まった吉田羊という女優が、テレビを経て、スクリーンでその力を発揮する、そんな日が来ることが本当に楽しみだ。

(役者魂 担当)

ピックアップ魂
  • 出身地福岡県
  • 特技

    動物の鳴きまね・博多弁・ピアノ

【略歴】

福岡県出身。
舞台を中心に活動後、現在はテレビ・映画・CMなどに出演。2008年連続テレビ小説「瞳」で俳優・中井貴一の目にとまり、脚本家・三谷幸喜作品などにも出演。現在NHK連続テレビ小説「純と愛」にレギュラー出演中。11月には映画「ふがいない僕は空を見た」が公開。
 

出演歴

 

■TV
2012年

 『純と愛』- 桐野富士子 役(NHK)
『GTO』第3話 - 村井つばさ 役(フジテレビ)

『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜』 最終話- 木野原絵津子

『最後から二番目の恋』 第2話~6話- 畑中みどり 役(フジテレビ)

松本清張没後20年特別企画 ドラマスペシャル 『波の塔』- アケミ 役(テレビ朝日)

2011年

『花嫁のれん』(第2シリーズ)- 瀬野有紀子(東海テレビ)

『江』-清原いと役(NHK)

『幸せになろうよ』 第9話 - 鴨川洋子 役(フジテレビ)

2010年

開局60周年記念ドラマ『99年の愛~JAPANESE AMERICANS』-野中絹江役(TBS)

『パーフェクト・リポート』 第3話- 吉川理恵子役(フジテレビ)

『コード・ブルー −ドクターヘリ緊急救命』− 2nd season 第6 - 11話- 野上直美 役(フジテレビ)

他多数


■映画

2012年

ガール

2011年

八日目の蝉 - 女性刑事

ツレがうつになりまして。- 市毛加奈子役

■CM
サランラップ(現在契約中)

アリエール(現在契約中)


■舞台

2011年

国民の映画-作・演出:三谷幸喜

2009年

とんでもない女 <再演>-作・演出:中津留章仁
東京サンシャインボーイズ「returns」-作・演出:三谷幸喜)