30歳という若さで独特の空気感を感じさせ、印象に残る演技をされる「役者」川野直輝さん。この度、初主演映画を飾り、今後数々の作品に出演が期待される川野さんにお話しを伺いました。



ピックアップ魂 vol.8
川野直輝篇


単独初主演「僕の中のオトコの娘」

―まず、映画「僕の中のオトコの娘」で単独初主演おめでとうございます。どんな思いで臨まれましたか?

ありがとうございます。主演だというのは、あまり考えないようにして目の前の役にぶつかっていこうと思っていたんです。でも、窪田監督の狙いだったのかもしれませんが、すごく考えさせられて追い詰められて…。正直、孤独を全身で感じましたし、他のキャストの方とコミュニケーションをとる余裕もありませんでした。これまで僕が関わった現場の主演の方って、皆さん余裕があって、周りに気遣える方ばかりで…。今回の僕はそういうことが全くできませんでした(笑)。

―でも、その感じが引きこもりの謙介役とハマっていて、いい具合に演技に出ていました。

そう見ていただけると嬉しいです。ほとんど接していないからこそ、父親役のベンガルさんや姉役の中村ゆりさんと話すときには本当に緊張していました。唯一、(内田)朝陽とは以前共演をしたことがあり、仲も良かったので、彼と話すときだけちょっと癒されたりはしていました。

―モントリオール世界映画祭の“Focus On World Cinema”部門 にも選出されましたが、現地の反応はどうでした?

海外ではどう見えるんだろう?という期待や不安がある中で舞台挨拶をさせていただきましたが、とても評価をいただきました。日本の女装文化への興味からか、質問も多くて。日本だとまた反応も異なるのでしょうけど、オリジナル脚本で主演を演じられたことは嬉しかったですし、自信にしたいです。

    

―川野さんが演じた「女装娘」って、オカマやゲイなどのように役者がやりたいと思う役の一つだと思うんです。ただ、とてもマイノリティーな分野であることに違いはないので、きちんと描く場合は一気にハードルが上がるように感じます。

    

そうですね。映画に入る前に、映画の舞台でもあり実在するバーに行ったり、女装娘さんの話を聞いて勉強したりしたのですが、一言で「女装娘」や「オカマ」と言っても、本当にいろんな人がいるんです。単純に女装好きの方や、結婚していながらもそういう世界で働く方、女の子にも男の子にも興味のある方、本当は性同一性障害だけど女装娘を演じている方…。いろいろな話を聞いて、一度自分の中で昇華させて役に臨みました。

    

―女装をして「恥ずかしい…」っていうのが特にリアルでしたよ。あれは実際の感情?

    

過去に感じた「恥ずかしい」を、自分の中のOSファイルに圧縮して入れていて、解凍して出している感覚です(笑)。不思議ですが、女装すると、急に女性っぽいしぐさになるんですよね。鏡が気になったり、髪を触りたくなったり。出しすぎるとこなれてしなうので、そこを抑えながら演じようとはしていました。 あと、お姉さんのワンピースを着て破れちゃうシーンがあるんです。その音が良くて、映像見て、自分でも笑ったくらい。

    

 

―「僕の中のオトコの娘」に対する思いを教えて下さい。

    

役者をはじめる前に「これからどうしていこう」っていうのもあって、主人公の謙介のようにふさぎこんでいた時期がありました。みんなあると思うんですよね、そういう嫌な流れから抜け出すための小さなきっかけって。その時の自分は音楽だったり役者だったし、謙介は女装だったっていう、それだけなんです。女装という部分が目立ってしまいますが、社会にうまく適応できずに引きこもっていた一人の男の子が、自分なりのピースを見つけて家族や社会との関係性や見つけていくという部分って、きっと共感してもらえるんじゃないかと思っています。

 

全体の流れ、グラフ、逆の設定まで 徹底的に準備をして現場に入る

―一度主演を経てからの脇役というのも勉強になるでしょうね。

以前より映画やドラマ全体の流れを考えて役に臨めていると思っています。台本と向き合う時間が増えたし、ものすごく書き込むようになりました。役の心情や、他の役との関係性とか、こんな表現もあるのでは?とか、全部。まず自分なりに考えてその役柄を設定して、次はそれと間逆の考えも用意します。あと、テンショングラフを作るんです。

―テンショングラフ?

ここは上がっていて、自分の今日の撮影はこの下がったあたりだから…っていう推移を波線で表すんです。順撮りすることってほとんどないですし、スポットの出演だと、特にこのグラフでテンションを図るのが大事になります。

 

―そこまでの準備が功を奏することもあるし、裏切られることもありますよね?

はい。だから、結構周到な用意をして臨むんですけど、いざ現場にはからっぽで入ります。なんていうか、本当にからっぽになっちゃうんです。からっぽにすることで、設定していなかったことを言われてもフラットに臨めているようには思っています。…まあ、要は、不安なんですよね(笑)。やっぱり1カットで「ダメだな」とか「次も使おう」って判断されることもあるだろうし、ひとつの「OK」が来月とか来年につながっていく。だからいつも「これが最後だ」って思って望むんです。

エンターテイメント性が高い役から、シリアスな役まで

―振り返ると、テレビドラマ「木曜の怪談」でデビューして、レギュラー出演した「獣拳戦隊ゲキレンジャー」の演技で評価が高まり、「踊る大捜査線」シリーズでの栗山孝治役…など、エンターテイメント色が濃い作品での存在感の出し方が上手だと思います。

特撮は小さい頃から好きだったというのもありますし、アニメもよく見ていたので、いろんなキャラから持ってくる感じです。あとは、趣味としても、仕事としても映画をよく見るので、参考にすることもあります。 そうそう、「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」は父と母が劇場まで見に行ってくれたんです。「二人で映画に行くなんて結婚前以来だ」なんて言っていたので、親孝行ができたようで純粋に嬉しかったですね。

―これまでの役の中でも、テレビドラマ「Answer〜警視庁検証捜査官」(12年)の最終回はかなり心に残っています。前半1シーンしか出ていない中で、後半事件のキーマンとなるというのは、かなり芝居が試される役でしたね。

重圧を与えていい役だったので、台本を読んで、ファーストインプレッションを得て、そこから一度逆の表現を考え、他の人の意見も聞いて、また最初に戻って…とか、すごくもがいて、グシャグシャになろうと自分を追い詰めました。

―今後、挑戦したい役はありますか?

今はいただく役ひとつひとつに全力なので選ぶとかではないんですけど、今後、明るい役もやりたいんですよね。「メン☆ドル 〜イケメンアイドル〜」(08年)とかは明るい方向性で、テンション上げて演じるのも結構好きだったんです。

演じることは「己を知ること」

―今は一つひとつの役に対して、もがいたり、アプローチを変えながら臨まれていますが、今後こうしていきたいとの考えはありますか?

例えば、同じような刑事役や犯人役などでも、別物としてチャレンジすると思います。まったく別の人に見えたらいいですね。どんなに近い役でも絶対リセットしますし、役に対して「はじめまして、よろしく」ってスタンスでいたいとは常に思っています。役者になって10年ですが、慣れたと思ったらすぐ次の現場だし、またそこに壁があって、乗り越えていく、の繰り返しですし、それでいいかな。気持ちはいつも新人。この気持ちは、何年たっても持っていたいです。

―その姿勢があるから、川野さんはいつも新鮮に見える気がします。

いや…いつまでも新鮮でありたいと思っていますし、去年の今頃より視野が広くなった自分も感じています。手ごたえも少しづつ大きくなっているかもしれません。ただ、こうやって役者としての自分を語りながらも、一つの作品が終わったあとに「別のパターンがあったかもしれない」「もっとこうしたらよかったかも」なんて、答えが出ないことで悩むことも多くて、日々勉強で、鍛錬なんです。

―最後に、川野さんにとっての役を演じるとは?

えっ……。なんだろう……。(立ち上がって頭を抱えて数分考えて) 「己を知ること」…ですかね。今の自分を鏡で見る、じゃないですけど、現在地の自分が何を考えていて、役に向き合うときにどうするのか。自分を出すのか、それとも消すのか…ということを考え続けることなのかもしれません。正直、自分の考えってその時々で変化していいと思っていて。何かを問われたらそのたびに考えていきたい。役に対してもそうで、常に新鮮でいたいし、向き合い方も、そのたびに考えていたいですね。


― ありがとうございました。

 

 

【最新情報】

★主演映画「僕の中のオトコの娘」~第36回モントリオール世界映画祭正式出品~ 2012年12月1日公開

★映画「SNOWCHILD」~第33回モスクワ国際映画祭にてシネマクラブ特別賞受賞~

★ドラマ正月時代劇「御鑓拝借」(NHK)2013年1月1日OA

 



編集後記

主演を飾り、ドラマでも見入ってしまうような演技をされる川野さん。そんな彼でも自分が本当に役者なのかどうかわからないという。まだ役者としての自分に違和感を感じているのだと。

そのせいなのか、インタビュー時も、戸惑うケースが何回か見られた。 しかし自分の中では、もがきながらも「役者としての自分」が固まりつつあるのだろう。言葉の中に強い信念のようなモノが感じられた。

常に「これがラストチャンス」だと言い聞かせ、与えられた役に責任を感じながら演じている。人見知りな自分を奮い立たせて努力している、実は相当ストイックな方なのであろう。

同年代で人気が出始めると、同じような役柄を演じるようなことが増え、その人自身のイメージが固定されていきがちになるが、川野さんには「役者」として幅のある芝居にどんどんチャレンジしていってもらいたい。

果たして川野さんご自身の口から「役者、川野直輝」と言えるのはいつだろうか。 今後の役者としての川野さんが楽しみだ。

(役者魂 担当)

ピックアップ魂
  • スリーサイズB 87 W 76 H 88
  • 生年月日1982-02-22
  • 出身地千葉県
  • 特技

    ドラム・ベース・ギター・ピアノ・テニス・レーシングカート・絵を描くこと

【略歴】

1995年「木曜の怪談・怪奇倶楽部」でドラマデビュー。映画・ドラマ・舞台・CMに多数出演。

代表作に「獣拳戦隊ゲキレンジャー」)、「踊る大捜査線 THE MOVIE 3」など。

ドラマーとしても活躍する他、楽曲制作も行う。


 

出演歴

■TV
2012年

「仮面ライダー ウィザード」 (テレビ朝日)

「踊る大捜査線THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件」(フジテレビ)

「遺留捜査」6話 (テレビ朝日)

「Answer」最終回 (テレビ朝日)


■映画
2012年

「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」 監督:本広克行

「東京無印女子物語」 監督:大九明子

2011年

「ハードロマンチッカー」 監督:グー・スーヨン

■CM
2012年

ロッテ「極上比率 生ショコラブッセ」

■舞台

2012年

「リ・メンバー」 演出:成島秀和